「 回想 子規・漱石 」 高浜虚子著 岩波文庫
NHKでの 「坂の上の雲」 の放映がはじまった。
この本には、その主人公のひとりである正岡子規に虚子がはじめて
出会ったことが書かれている。
当時中学生であった余らがバッチングを遣っていると、・・東京
帰りの四、五人の書生が遣って来た。・・・
その人の風采は他の諸君と違って着物などあまりツンツルテン
でなく、兵児帯を緩く巻帯にし、この暑い夏であるにかかわらず
お手首をボタンでとめるようになっているシャツを着、平べったい
俎板のような下駄を穿き、他の東京仕込みの人々に比べ
あまり田舎者の尊敬に値せぬような風采であった・・・・・
そのバッチングはなかなかたしかでその人も終には単衣の肌
を脱いでシャツ一枚になり、鋭いボールを飛ばすようになった。
・・・
このバッターが正岡子規その人であった事が後になって判った。
子規は、元気でバイタリティーのある人物であることがうかがえる。
とくかく、エネルギッシュであったのだ。
短かった人生を、一気に駆け抜けた。
彼のお陰で俳句は文学になり、文学者、科学者、庶民まで、
広く影響を与え、こんにちまでもそれは続いている。
子規の自然を見る観察力は、科学者のそれによく似ていると思う。
記録は実力、観察は愛情。